大判例

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東京地方裁判所 昭和62年(特わ)613号 判決

本店所在地

東京都墨田区業平二丁目二番一三号

株式会社三富士製作所

(右代表者代表取締役 細田治司)

本籍

東京都墨田区立花一丁目八五番地

住居

同都同区業平二丁目二番一三号

会社役員

細田治司

昭和一〇年五月一日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社三富士製作所を罰金一六〇〇万円に、被告人細田治司を懲役一〇月に、それぞれ処する。

被告人細田治司に対し、この裁判の確定した日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき理由)

被告人株式会社三富士製作所(以下被告会社という。)は、東京都墨田区業平二丁目二番一三号に本店を置き、自動車タイヤチェーンなどの製造販売を目的とする資本金三〇〇万円の株式会社であり、被告人細田治司(以下被告人という。)は、被告会社の代表取締役として被告会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、売上の一部を除外し、あいは架空の仕入を計上するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  昭和五七年七月一日から同五八年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二二六五万二八五五円あった(別紙1修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五八年八月三〇日、同都同区業平一丁目七番二号所在の所轄本所税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が、九八七万二一一九円でこれに対する法人税額が二五七万八六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六二年押第六〇〇号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額七九四万六二〇〇円と右申告税額との差額五三六万七六〇〇円(別紙4ほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  昭和五八年七月一日から同五九年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が八九六七万六二三六円あった(別紙2修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五九年八月三一日、前記本所税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が、一二八八万三七九二円でこれに対する法人税額が四〇三万五六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額三七二八万六九〇〇円と右申告税額との差額三三二五万一三〇〇円(別紙5ほ脱税額計算書参照)を免れ

第三  昭和五九年七月一日から同六〇年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五〇五六万八七六二円あった(別紙3修正損益計算書参照)のにかかわらず、同六〇年八月二九日、前記本所税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が、一〇四四万五九八〇円でこれに対する法人税額が二八八万四二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二〇二五万七四〇〇円と右申告税額との差額一七三七万三二〇〇円(別紙6ほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  被告人の(イ)当公判廷における供述

(ロ)検察官に対する各供述調書

一  細田歌子の検察官に対する供述調書

一  収税官吏作成の次の調査書

(イ)売上高調査書

(ロ)期首棚卸高調査書

(ハ)期末棚卸高調査書

(ニ)原材料仕入高調査書

(ホ)租税公課調査書

(ヘ)受取利息調査書

(ト)事業税認定損調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書二通

一  本所税務署長作成の証明書

一  登記官作成の商業登記簿謄本一一通

一  押収してある法人税確定申告書三袋(昭和六二年押第六〇〇号の1ないし3)

(法令の適用)

法律に照らすと、被告会社の判示各行為は、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当するところ、情状により同法一五九条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四八条二項により各罪につき定めた罰金の合算額以下において、被告会社を罰金一六〇〇万円に処する。

被告人細田の判示各行為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重した刑期範囲内で被告人を懲役一〇月に処し、情状にり同法二五条一項を適用してこの裁判の確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

(量刑の理由)

本件は、判示のとおり、自動車タイヤチェーンなどの製造販売を業とする被告会社の代表者である被告人細田が、被告会社の業務に関し、三期分合計で約五六〇〇万円の法人税を免れたという事案であり、そのほ脱額は少額とは言えず、税のほ脱率も通算で約八五パーセントにのぼっている。

本件に至る経緯をみると、被告人は、昭和三八年ころから個人でタイヤチェーンの製造販売を始め、同四二年六月に被告会社を設立して代表取締役となったが、同五四年ころ高血圧のため入院し、被告会社が倒産寸前の状態に陥入ったが、人員整理などにより同五七年六月期には苦境を脱することができたので、そのころから将来の経営危機に備えため、売上除外により裏資金を蓄積するようになったものである。

本件犯行の態様をみると、所得秘匿の手段は、主として売上除外及び架空仕入の計上による製造原価の水増しを内容とし、被告人は、販売先から受取手形のうち新規及び短期の取引先や経理のしっかりしていないと思われる取引先にかかる分について、妻に指示して手形記入帳に記帳せず、売上帳も改ざんさせると共に、これを仮名の銀行預金口座で取り立てて裏資金に回し、また架空仕入分については、長女に指示して架空仕入先の納品書を作成させ、架空仕入先に対する支払手形を振出して、前同様仮名の銀行口座で取り立てるなどしていたもので、悪質、巧妙な面もみられる。

右のような本件の動機・態様並びに結果に徴すると、被告人の刑事責任は軽視できないものがあるといわなければならないが、反面、被告会社の営業は、冬期の降雪状況に左右され好不況の振幅があること、被告会社は昭和五六年六月期の決算で欠損金を繰越すほどであり、必ずしも業績は良好ではなく、したがって、被告人の脱税も同五七年六月から始まったもので、脱税歴は古くはなく、脱税による利益の蓄積は概ね本件対象期のみにかかるものであること、不正行為のうち昭和五九年六月期に約三〇〇〇万円にのぼる架空仕入を計上した動機は、同年一月の豪雪により同期の売上が急増し、薄外の不良品在庫を放出したことにより同期の所得額が予想以上に多くなったことにあり、右期以外にはそれほど多額の架空仕入の計上は行われていないこと、被告人は、本件の査察調査以来、一貫して犯行を自白し改悛しており、犯行によるほ脱結果についても、修正申告のうえ国税及び地方税について本税・附帯税を含めてすべて完納していること、被告人には前科・前歴がなく、健康状態も十全でないことなど被告人のため斟酌すべき事情も認められる。

以上を総合勘案すると、被告人に対してはその懲役刑の執行を猶予して自戒に委ねるのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑被告会社につき罰金一八〇〇万円、被告人につき懲役一〇月)

検察官千田恵介、弁護人久保博道各出席

(裁判官 小泉祐康)

別紙1

修正損益計算書

株式会社三富士製作所 No.1

自 昭和57年7月1日

至 昭和58年6月30日

〈省略〉

別紙1

修正損益計算書

株式会社三富士製作所 No.3

自 昭和57年7月1日

至 昭和58年6月30日

(当期製品製造原価内訳)

〈省略〉

別紙2

修正損益計算書

株式会社三富士製作所 No.1

自 昭和58年7月1日

至 昭和59年6月30日

〈省略〉

修正損益計算書

株式会社三富士製作所 No.3

自 昭和58年7月1日

至 昭和59年6月30日

(当期製品製造原価内訳)

〈省略〉

別紙3

修正損益計算書

株式会社三富士製作所 No.1

自 昭和59年7月1日

至 昭和60年6月30日

〈省略〉

修正損益計算書

株式会社三富士製作所 No.3

自 昭和59年7月1日

至 昭和60年6月30日

当期製品製造原価内訳)

〈省略〉

別紙4

ほ脱税額計算書

自 昭和57年7月1日

至 昭和58年6月30日

会社名 株式会社三富士製作所

(1)

〈省略〉

別紙5

ほ脱税額計算書

自 昭和58年7月1日

至 昭和59年6月30日

会社名 株式会社三富士製作所

(2)

〈省略〉

別紙6

ほ脱税額計算書

自 昭和59年7月1日

至 昭和60年6月30日

会社名 株式会社三富士製作所

(3)

〈省略〉

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